前トランプ政権による数々の移民法の審査の厳密化に続き、新型コロナの影響で永住権の申請時間が大変長くなっています。テロリスト対策の一環として、前トランプ政権は2017年10月より、雇用ベースの永住権申請者全員に対して、面接を義務付けました。それまでは、過去に違反行為がない人の面接は免除されていましたが、この措置により、年間14万人もの申請者の面接に大変長い待ち時間ができ、永住権の審査が大幅に遅れました。これに加え、新型コロナの影響で、指紋押捺会場の閉鎖のためにさらに待ち時間が長くなり、指紋が再開された後も待ち時間が一向に改善されていません。以前は日本国籍者であれば、審査に問題がなければ、およそ1.3~2年ほどで永住権申請の全審査過程が終了していましたが、現在では指紋や面接の待ち時間により、申請場所によっては待ち時間が10カ月から42カ月ほどになっています。GA州の地元移民局は、アトランタでの面接予定者の一部をサウスカロライナ州やアラバマ州などの周辺州で面接することで、面接の待ち時間の短縮化を図っているようです。

雇用主スポンサーによる永住権の申請には5つの優先枠があります。第4優先枠は宗教活動従事者・その他特殊なケース、第5優先枠は投資者による申請ですが、ここでは一般に日本人が利用する第1、2、3優先枠の雇用主スポンサーによる永住権の申請について説明します。

【第1優先枠】第1優先枠には、Extraordinary Ability (EB1-1), Outstanding Researcher (EB1-2), Multinational Manager (EB1-3)の3つのカテゴリーがあります。

  • EB1-1は、申請者が科学、芸術、教育、ビジネス、スポーツなどの分野で世界的に傑出した業績をあげ、その分野でトップクラスの技能者が対象です。例として、ノーベル賞やアカデミー賞受賞者、オリンピックメダリスト、画期的な発明者などがあげられます。国際的レベルの賞がなければ、研究内容の出版・発表、学会・業界への貢献度など申請者の研究成果に関する証拠書類を最低3つ提示します。
  • EB1-2は、研究能力や業績が国際的に評価され、その研究分野で最低3年間の教職もしくは研究経験があり、さらに大学で教職、もしくは研究機関や私企業でこれに匹敵する研究職に従事することが条件です。研究内容の卓越性の証明として、例えば、研究業績に関する賞受賞、専門団体会員、研究内容の出版・発表、他の研究者の研究文章への引用、他の研究者の研究内容審査、学会・業界への貢献度などの証拠を最低2種類提出します。
  • EB1-3は、日本人では主にLビザやEビザ派遣の国際管理職が対象となりますが、海外の関連会社で渡米前の3年間の内1年以上の上級管理職経験があり、アメリカでも上級管理職として赴任していることが条件です。

【第2優先枠】第2優先枠は科学・教育・ビジネス分野で有能な人材、もしくは大学院以上を必要とする専門職に従事する人が対象となります。その他にも、アメリカの国益に貢献する者に対してNational Interest Waiver (NIW)という枠も設けられています。

【第3優先枠】第3優先枠は学士号保持者、 熟練・非熟練労働者など、上記のカテゴリーに当てはまらない人が対象となります。

【個人スポンサー】尚、上記のうちExtraordinary Ability (EB1-1)とNIW (EB2)は雇用主スポンサーがなくても、自己申請を行うことができます。

【申請過程】第2・3優先枠の申請は、3段階の申請過程を経ます。

(1) まずは労働局に当該ポジションに対する平均賃金を申請し、次に地元のメディアに求人広告を掲示して、米国市民や永住権保持者で最低資格条件を満たす人材がいないことを証明できれば、労働局に外国人労働許可申請 (Labor Certification Application) の申請を行います。平均賃金が予定する給与額を大幅に上回っていたり、或は、求人広告のポジション条件を満たす候補者がいれば、永住権申請はストップしますので、申請前に職務内容、ポジション条件など十分に検討する必要があります。第1優先枠と第2優先枠のNIW枠の人は、労働局への外国人労働許可申請過程が免除されます。

(2) これが承認されたら、次に雇用主が移民局にスポンサー申請を提出します。スポンサー申請では外国人労働許可申請の内容確認、さらに雇用主の財的状況を審査されます。雇用主は申請社員に支払う給与額、或はそれ以上の利益を上げていることが条件となります。ところが、新型コロナの影響で、収益に打撃を受けている企業が多くみられます。その場合は、純流動資産が申請社員に支払う給与、或はそれ以上であることを証明することで流動資産が十分にある証明をすることができます。上記いずれも証明できない場合は、申請社員に既に平均賃金以上の賃金を支払っていた証拠、或はその他の証拠を提示することで、支払い能力があることを証明しなければなりません。

(3) 最後に本人と家族による永住権の申請を移民局に提出します。日本国籍者など、永住権の国別枠による順番の待時間のない人であれば、雇用主スポンサー申請と永住権申請を同時に提出することもできます。昨年度2月から前トランプ政権によりPublic Charge Ruleが施行され、申請者と家族の資産や負債情報の詳細を開示する必要があり、審査がさらに長引いていましたが、バイデン政権によりこの法律は撤回されたために、Public Charge Ruleの審査はなりました。しかしながら、永住権申請中に転職をした人は、新しい雇用主が永住権で申請した同職のポジションでの雇用と賃金を保証することを証明するために、新たにI485Jフォームを提出する必要があります。特に現在は新型コロナの影響で解雇されるケースも見られますが、永住権申請中の雇用主変更に関しては、転職後も永住権が続行できるように、変更のタイミングや新しいポジションと賃金を十分に検討する必要があります。


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By 大蔵昌枝

東京外国語大学中国語学科卒業。サウス・カロライナ州サウス・カロライナ大学ロースクールおよびビジネススクールのJ.D./MBA ジョイント・ディグリー課程卒業、法律博士 (Juris Doctor) および経営学修士 (MBA) の学位を授与される。在学中は、会計監査、法律文書レビュー、外国人学生の移民法関連アシスタント業務などに従事。2004年にジョージア州弁護士資格取得。現在はTaylor English Duma LLP法律事務所のパートナー。著書に『アメリカビザ取得完全マニュアル』『アメリカの陪審制度と日本の裁判員制度、陪審制度の発展と意義 』などがある。