BPOとは何かご存じでしょうか。これはBlanket Purchase Orderの略であり、一括発注(注文)書と訳されます。商取引の当事者間で価格を予め合意しておき、買主(以下「バイヤー」といいます。)が商品を欲するタイミングで、必要数量が記載された注文書がサプライヤーに送付される仕組みです。発注ごとの価格交渉や社内の承認プロセス、契約書の締結などの管理業務を省略し、ビジネスを促進する効果があります。実務上、特定の商品に関する長期の供給契約を希望するバイヤー・サプライヤー間で多用されています。

もっとも、このBPO取引の適法性を巡って、サプライチェーン関連取引の根幹を揺るがす最高裁判決が、まもなくミシガン州で出される可能性があります。本稿では、まず、日米のBPO取引における実務上の決定的な違いと注意点の他、BPO取引に係る特殊な米国契約法を紹介します。また、後編として、もう一つの特殊な米国契約法の他、現在最高裁判所で争われている案件の概要と判決の及ぼし得る効果をお伝えしたいと思います。

日米間の実務上の違い

日本でも近年、BPOを用いた取引は多く見られるようになって来ています。もっとも、日米両国の取引実務上、決定的に異なるのは基本契約との関連性です。

 日本では、企業間の基本的な取引条件を定める場合、まずは基本契約書ないし基本合意書といった書面のやりとりがされることが通常です。この基本合意書の締結とBPOに基づく納品は、日本では別物として位置付けられています。したがって、「既にBPOに基づいて納品は行っているものの、基本契約の締結はこれから」と考えている企業が多く存在します。

 しかし、この日本式な契約は、アメリカではあまり通用しません。その理由は、日本式とは異なり、アメリカではBPOと基本契約が密接にリンクしている点にあります。バイヤーの発行するBPOには通常、バイヤーのホームページ上にあるTerms & Conditions(取引条件、以下「T&C」という。)が適用される旨が謳われています。たとえば “This purchase order is governed exclusively by the purchaser’s Terms and Conditions, which can be found at www.バイヤー名.com.” といった具合です。ホームページ上にあるT&Cでは、日系企業が正に基本合意書で規定することを想定していたであろう契約の詳細が規定されており、通常、サプライヤーがBPOに応じて納品した場合には、T&Cに合意したものとみなされます。BPOに基づく納品によって、法的には基本契約書にサインしたことと同じ効果が発生するため、「既にBPOに基づいて納品を行っていれば、基本契約の締結は済んでいる」ことになるのです。

 BPOではT&Cが適用される旨が非常に簡単に記載されていることや、BPOのやりとりを行う営業担当者が日本式のBPOを想定していること等が相まって、アメリカ式のBPOに隠された法的側面を見逃す日系企業は想像以上に多く存在します。ビジネスが進み、既存のやり方を修正する必要が生じたものの相手方と折り合えない時に初めて(多くの場合、納品スケジュールや製品の仕様、製品価格の変更が問題となります)、上記の仕組みでバイヤーの定める契約条件に合意済みであると知り、慌てる事例が後を絶ちません。

 T&Cでは、当然の如く一方的な契約内容が設定されています。たとえば、価格決定の元になったバイヤーの提示したフォアキャストに法的拘束力がないことが明示され、最低購入数量は保証されません。契約期間はサプライヤーが供給すべき製品が必要とされる期間とされ、この間、サプライヤーに価格変更権や供給停止・契約解除権は与えられず、もしサプライヤーが供給停止を強行すれば重大な損害賠償責任を伴います。

これらの点は、一定の契約期間を定めた上で自動更新特約で更新を続けていく一方で、契約期間中における価格の見直しの機会や、1-3ヵ月の解約告知期間を設定する場合の多い日本式の契約と大きく異なります。

Consideration(約因)という概念

アメリカと日本では、契約を修正する際の交渉スタンスにも大きな隔たりがあります。日系企業には良くも悪くも、自社の直面する切実な状況を示した上で、最後は相手方の経営責任者に直接話を通して情に訴えるという交渉パターンがあります。たとえば、過去1年で人件費や材料費、賃料相場が何%上昇しているといった客観的なデータを挙げた上で、「このように当社も長らく大変な状況にあり企業努力には限界がありますため、何卒ご理解のほどを宜しくお願い申し上げます。」と結ぶ例はその典型です。

しかし、アメリカ企業に対するこの日本式交渉術の効果は限定的です。日本と最もリアクションが異なると感じるのは、アメリカ企業の「契約を変更したいのであれば変更料を支払ってくれ」という反応を見る時です。日本企業からすると、経営が逼迫しているために価格交渉をお願いしているのに契約変更料を請求するとは何事か!?となるわけですが、実はアメリカ企業のこの反応には、単に「アメリカ企業は契約にドライだから」「アメリカ企業は日本企業との真の共存なんて望んでいないから」といったステレオタイプ的な説明以上の法的根拠があります。

その法的根拠とは、Considerationという日本の契約法上は存在しない概念で、一般的には約因と訳されるものです。約因とは、契約が有効に成立するために必要とされるなんらかの対価(利益または損失)です。たとえば、自動車の売買契約において、Xが自動車の引渡し、Yが10,000ドルの支払いに合意する契約書を作成した場合、この10,000ドルが約因になります。

上記の契約は、もちろん日米どちらの国でも有効です。もっとも、上記の例で、Xが自動車を引き渡す義務を負う一方、Yによる10,000ドルの支払いが規定されなかった場合には日米間で結論に違いが出ます。日本では有効な贈与契約としてYはXに対する自動車の引渡請求権を有します。しかし、アメリカでは、約因を欠くため売買契約は無効となり、Yは自動車の引渡請求権を有しないことになるのです。

日米間の法律構成の違いが更に顕著に表れるのが、最初の契約を修正する場合です。アメリカでは、契約を変更する合意もまた契約(修正契約)なので、最初の契約と同じく約因が必要とされ、これを欠く修正契約は無効とされます。上記の例で、Xが自動車を引き渡し、Yが10,000ドルの支払いに合意した後、たとえばXの求めに応じて価格を12,000ドルに変更するXY間の合意は新たな契約になります。このとき、Yが12,000ドル支払うことに合意しても、それに対するXからの約因が設定されないと、修正契約は無効です。したがって、Yは価格変更に合意した後でもXに対して10,000ドルの支払義務しか負いません(なお、日本では、12,000ドルに価格を変更する合意は有効と認められます。)。

したがって、冒頭で挙げた「契約を変更したいのであれば変更料を支払ってくれ」というアメリカ企業の姿勢は、値下げ交渉(修正契約)を有効にするための約因を要求するアメリカ法文化に根差すものといえるわけです。

小括

このように、契約の締結プロセスや契約要件の点で、アメリカの契約実務は日本と大きく異なります。アメリカで戦う日本企業は、この相違を踏まえた交渉戦略を練る必要があるはずです。


バーンズ&ソーンバーグ法律事務所
山本 真理
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