昨年の恐らく最も興味深い訴訟はクレイマン対ライト事件(18-cv-80176 (S.D. Fla.))ではないだろうか。この訴訟は、知的財産等の事業資産をめぐる、ありふれたパートナーシップの紛争から生じたものである。2018年初めに提起されたこの訴訟は2021年末に500億ドル以上のビットコインの行方、初期のブロックチェーン・テクノロジーの背後にある知的財産権の権利者、さらにビットコインの作者とされる「サトシ・ナカモト」が争点となったことから注目を集めた。

この訴訟は、デヴィッド・クレイマン氏(2013年に死去)の遺産財団からオーストラリア人コンピューター・サイエンティストのクレイグ・ライト氏に対して提起された。ライト氏とクレイマン氏は、2008年からクレイマンが亡くなるまでビジネスパートナーだった。2008年、ナカモト氏がサイバー通貨システム「Bitcoin」と、通貨単位である「bitcoin」の両方を作り出した。その後まもなく、ナカモト氏はビットコインの「マイニング」を可能にするソフトウェアをリリースした。訴訟では、ビットコインおよびその周辺の知的財産は、クライマンとライトがナカモトの名を用いて共同創出したものであることが主張されたが、ライトは2016年に彼個人がナカモトだと公にほのめかした。その後ライトは、この言動を振り返り、ビットコインの開発にクレイマンが果たした多大な貢献を認めた。

2011年から2013年にかけて、ライトとクレイマンは、本件訴訟の相原告であるW&K(W&K Info Defense Research LLC)を通して業務を行っていた。訴訟では、W&Kの運営中にライトとクレイマンが相当量のビットコインをマイニングし、または取得し、ブロックチェーン・テクノロジーを含む貴重な知的財産を開発したことが主張された。この訴訟では、ビットコインおよび関連する知的財産の所有権が争われた。

多くの場合、パートナーシップの紛争は、ビジネスパートナー間の不信と不満から生じる。クレイマンの早すぎる死はW&Kの事業に空白をもたらし、クレイマン側は実際にクレイマンに属している資産を把握しなければならなかった。この訴訟でクレイマン側は、クレイマンの死後、ライトがクレイマン側のビットコインおよび関連する知的財産の権利を奪取するために詐欺的行為を行ったと主張した。具体的には、クレイマンとW&Kに属するビットコイン、および関連する知的財産権を生前のクレイマンが譲渡したことを示すために、ライトが不正な文書を作成し、クレイマンの署名を偽造したことなどがあげられた。

原告が訴訟で求めた驚異的な資産額はさておき、その法的な請求要因は、パートナーシップに関する訴訟の典型といえるものだった。例えば、横領、不当利得、受託者義務違反、および詐欺等が挙げられる。こうした請求の要件は州ごとに異なるが、おおよそ以下のようなものである。

  • 横領を主張するためには、所有権と矛盾する方法で、許可なく占有権を奪うことを主張する必要がある。
  • 不当利得はを主張するためには、一方の当事者が相手側当事者に利益を供与し、当該利益が受領されたが、その態様が衡平を欠くことを主張する必要がある。
  • 受託者責任の違反は、信認関係を税邸とするものであり、当事者が受託者が信認義務に違反し、委託者が損害を受けた場合に主張することができる。
  • 詐欺は以下の立証によって成立する。(1) 被告が虚偽を述べたこと、 (2) 被告はそれが虚偽と知り、または知り得たこと、 (3) 被告はその虚偽の陳述を信じて原告が行動するように仕向けたこと、 (4) 原告の被害はその虚偽の陳述によってもたらされたこと。

多くのパートナーシップ紛争とは異なり、本事件は和解とはならず、最終的に南フロリダでの陪審裁判に持ち込まれた。数週間にわたる事実審理の後、陪審員は1週間以上審議を重ねた。一時は裁判官が無効審理を宣言する可能性があるとも報じられた。しかし、2021年12月6日、ついに陪審員の評決が下された。ライトは、知的財産の横領に関するW&Kの請求を除き、すべての請求を退けることができた。ライトは、ライトとクレイマンの遺産財団の両者が所有するW&Kに1億ドルの支払いを命じられた。

陪審員は、ビットコインのマイニングまたは当初の関連する知的財産の開発において、W&K以前のクレイマンの役割が十分に証明されなかったと判断した。W&K以前(2008年から2011年)のライトとクレイマンの関係は、書面によるパートナーシップ契約または同様の法的拘束力のある文書に記録されていなかった。クレイマン側の主張によれば、両者は共に情熱を持ってプロジェクトに取り組む友人関係であった。そして、彼らは友人関係や親戚間でビジネスを始めるときに陥りがちな過ちをおかした。すなわち、自分たちの関係は将来的にも良好であり、パートナーシップに関する契約書等を作成するため弁護士を雇う必要などないと考えたのだった。合意内容を文書で残さなかったことにより、クレイマンの遺産財団は数十億ドルの損失を被ったのかもしれない。

この訴訟では、ライトが実際にサトシ・ナカモトであるかどうかについては明らかにされなかった。そして、彼のビットコインをクレイマン側に引き渡す必要がなくなったため、ナカモトに関するライトの言い分は謎のまま近い将来まで持ち越されることになった。

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