うつ病とは、気分の落ち込みが続く気分障害の一つで、2割近い人が少なくとも一生に1度は経験するといわれています。ごく一般的な疾患ですが、実際に診断を受けるのは半数程度と少なく、適切な治療を受けている人は患者全体の2割以下とさらに少数です。
発症平均年齢は40歳で、患者の半数が20~50歳で発症します。50歳以下では女性患者が男性患者の2倍と多く、50歳以上だと男女比はほぼ同じです。
うつ病は、ストレスが引き金になって発症することが多く、患者の約8割は、発症前6カ月以内に大きなストレスを受けています。米国在住の日本人の場合、米国への引っ越しや不適応が発症のきっかけになることが多くみられます。性格的には、几帳面で真面目、我慢強く頑張り屋な人が発症しやすいとされています。
また、うつ病は、慢性身体疾患に併発しやすいことも知られており、例えばがん患者、糖尿病患者、心臓病患者の約2-3割がうつ病を発症すると言われています。
うつ病の主な症状は?
抑うつ気分(気持ちが沈み、常に悲しいなど)、興味・喜びの喪失、食欲低下・増加、不眠・過眠、疲れやすさ、集中力の低下、やる気の低下、エネルギーの喪失、精神運動の制止、焦燥感、苛立ち、罪悪感、自尊心の低下、自殺願望などです。うつ病ではこれらの症状が2週間以上続きます。肩こり、腰痛、頭痛、便秘・下痢、口渇、呼吸困難、動悸などの身体症状をともなうことも多く、うつ病患者の半数以上が内科や整形外科をまず受診し、結果的に診断が遅れることも珍しくありません。重症になると、幻覚・妄想状態に陥ることもあります。うつ病になると仕事、日常生活に大きな支障がでるだけでなく、未治療のうつ病患者の実に20%近くが最終的に自殺すると言われており、重症化する前に早めに受診することが非常に重要です。
まずどうすれば良いか?
このような症状がある場合には、まず精神科医 (Psychiatrist MD)の診察を受ける必要があります。うつ病以外の様々な精神疾患や内科疾患がうつ病と同様の症状を呈するため、うつ病の診断は非常に難しく、精神科医による詳細にわたる診察が必要不可欠です。
なお、日本の心療内科に相当する診療科は米国には存在しません。心療内科の領域は米国では精神科に含まれます。米国では精神科医療、特に外来診療が非常に発達しており、日本とは比べ物にならない程多様なサービスを利用することができます。精神科医の数が日本よりはるかに多いだけでなく、精神科医以外にもセラピストと呼ばれるサイコセラピー(心理療法、いわゆる心理カウンセリング)を行う資格・免許を持った専門家も数多くいます。かかりつけの精神科医やセラピストを持つことは米国では決して特別なことではなく、精神科受診に抵抗感を示す人は日本と比べてあまり多くありません。
なお、精神科では言葉の壁、文化の違いが診療に非常に大きな影響を及ぼします。言葉の微妙なニュアンスだけでなく、表情や態度、仕草など非言語的なコミュニュケーションまでもが診療にとって重要な情報になります。英語がかなり堪能で、英語での学業や仕事に全く不自由を感じていない人でも、精神科の診療の中で自分の気持ちや考え、症状を英語で精神科医にうまく伝えるのは簡単なことではありません。
また、日本の文化では正常とされている考えや行動も、米国文化の文脈では異常とみなされてしまうことや、その逆もあります。そのため、可能であれば日本人の精神科医、セラピストに受診をされることをお勧めします。
治療法は?
うつ病の治療には薬物療法とサイコセラピーを平行して行うのが最も効果的であることが知られています。よほど重症でない限り、普段通りの生活を続けながら外来治療を受けることが可能です。
薬物療法の中心は抗うつ薬です。代表的なのはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)ですが、他にも様々な種類があります。ほとんどの抗うつ薬は、効果が出るまで数週間から数カ月かかりますが、近年一般的に使用される抗うつ薬はどれも安全性が高く、副作用も少ないため、安心して服用していただけます。依存性もないため、薬に依存してしまう心配もありません。なお、重症のうつ病の場合は、抗精神病薬や気分安定薬などの抗うつ薬以外の薬を併用することもあります。
サイコセラピーは専門的な訓練を受けた治療者(精神科医やセラピスト)との対話および対人的な交流を通じた治療法で、1週間に1回45〜5
0分程度の時間をとって対面で面接するのが一般的なやり方です。サイコセラピーには様々な種類があり、患者さんの特性や症状に合わせて最も適切な種類を選択します。
うつ病は一度治癒しても再発率が高く、一度発症した人の5割にうつ病が再発します。再発を2回以上繰り返すと、その後の再発率は8割以上に上がります。再発予防のためには、症状が軽快してもすぐに治療を中断せず、長期的に薬物療法・サイコセラピーを続けることが大切です。
松木隆志医師