2023年3月に行われたH-1Bの抽選結果が発表されました。H-1Bには6.5万の普通枠とアメリカの修士号以上の学位取得者向けの追加2万枠の計8.5万枠がありますが、2014年から2022年にかけておよそ12.4万件から30.8万件の応募がありました。昨年度はコロナによる労働不足のせいか、申請者数の大幅な増加がみられ、48.4万件の登録がありました。これに対し、今年の抽選にはそれをはるかに上回る78万件以上の登録がありました。この著しい増加の背景には、下記のような理由が考えられます。
- パンデミック後に米国の大学と領事館業務の再開により、米国の大学を卒業し求職する外国人学生数が増加した;
- アメリカ国内の労働不足のため、外国人労働者のニーズが増加した;
- 前年度や一昨年度に当選しなかった登録者が再度登録した。
ただ、今年の登録数の急な増加に関しては、一個人に対し複数企業が登録をしていることが大きな原因だとみなされています。H-1Bの企業登録は、一雇用主が一個人に対し複数の登録をすることはできませんが、複数の企業が同一人物の登録を個別に行うことを禁じていません。また、H-1Bはパートタイム申請もできるので、同時に複数の企業がH-1Bを個別に申請することで、複数企業に勤務することも可能です。そのため、今年のH-1B抽選では、複数の雇用主が 同一人物に対してH-1Bを登録したため、登録者 75.7万人のうち、複数企業により登録された申請者数はその半数以上のおよそ40.9万人にものぼりました。このため、今年の当選確率は史上最低の10%前後となってしまいました。
現在のH-1B抽選は、$10の登録費用を支払うことで、雇用主は申請者を登録することができます。この登録システムはH-1Bの抽選を効率化する目的でつくられたものではありますが、登録時に雇用場所や職務情報などの情報を求められてないために、雇用先が決まっていなくても登録することが可能となっています。そのため、この安価な登録費用を利用して、一個人の当選確率を高めるために、$100ほどの費用を支払えば複数の雇用主を見つけて申請書を提出してくれる業者がでてきました。このため、今年の申請者数が激増してしまいました。
H-1Bの事前雇用主登録システムができる前は、雇用主はH-1B請願書をしなければならず、請願書移民局に提出した後に抽選が行われていました。従って就職先が確定していないと申請はできませんでした。また、抽選に落選したら移民局への申請費用は戻ってきましたが、弁護士費用はもどってこないため、企業の申請も慎重にならざるを得ませんでした。しかしながら、現在の事前企業登録システムにより無謀な登録が増えていると思われ、これに対してH-1B抽選時にH-1Bポジションが実際に存在することを確認するなど、政府が何らかの規制を設けない限りは、H-1Bプログラムの公正性が損なわれる可能性があります。
H-1Bの請願は雇用主から仕事のオファーがあって初めて成り立つものですが、抽選時点で仕事が確定していない企業も登録している可能性もあります。例えば、H-1Bのおよそ75%ををIT業界が占めていますが、複数の人材派遣会社が抽選時点で派遣先が確定していないまま一個人を登録した場合、その個人の当選確率は高くなりますが、当選した時点で仕事をみつけなければならなくなります。これは本来のH-1Bプログラムの意図に相反しています。雇用主は登録時に、この登録は正当なジョブ・オファーに基づくものであることを宣誓するので、申請時にH-1B専門職に該当する仕事が存在していなければ、虚偽の申請となってしまいます。
これに対し、移民局は昨年度と今年のH-1B申請企業に対して大規模な詐欺調査を行っており、虚偽の申請や詐欺行為が判明した場合は請願の却下或は取消しを行っており、さらに刑事案件として法的機関への調査依頼も開始しているようです。
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