米国国務省は、特定のビザ保有者は海外の米国大使館や領事館への渡航を必要とせずに、米国内でビザ・スタンプを更新できるオプションを設けると発表しました。 今年後半にはパイロット・プログラムが開始される予定で、とりあえず現在国外への渡米が必要な H-1B 専門職とL‐1関連企業間転勤ビザ保持者に対して、米国内でのビザ更新オプションが提供される予定です。将来的には他のビザ保有者もアメリカ国内でビザ・スタンプを更新できるようになる可能性があります。
2004年に米国国内でのビザ・スタンプ更新手続きが廃止されるまでは、海外の米国大使館や領事館への渡航を必要とせずに、アメリカ国内でビザ・スタンプの更新申請が可能でしたが、2004年度以降は、ビザ・スタンプを更新するためには国外に出る必要がでてきました。ところが、世界的な新型コロナの影響で海外への渡航が非常難しくなり、また、各国の地元の新型コロナの感染状況により領事館業務が一時的に中止したために、各国のビザ発行業務に著しい遅れがでてきました。その他にも、ウクライナ情勢の悪化でヨーロッパ近隣国のビザ面接の遅れにさらに拍車がかかりました。
国によってビザ面接の待ち時間は様々ですが、特にインドではビザ面接予約をとるのに1年以上かかっているために、ビザ更新のために自国にもどった社員が面接の遅れで戻ってこれないなど、多大な問題が生じていました。この状態を改善するために、2021 年 12 月には特定の H-2、F、M、J(アカデミック)、H-1、H-3、L、O、P、および Qビザの更新申請者のビザ面接が免除され、ビザの郵送申請のオプションが設けられたために、ビザ面接予約の未処理分がかなり減少しました。 その後、ビザの郵送申請オプションは2023 年 12 月 31 日まで延長されました。
また、短期就労ビザ保持者が解雇されると、ビザ滞在資格を維持するためには、解雇後60日の猶予期間、或はI‐94の有効期限のいずれかの短い期間までに、新しい雇用主を見つけて、雇用主変更申請を移民局に提出しなければなりません。ところが最近テクノロジー企業による大幅な解雇が続いたために、合法期間内に新しい雇用主を見つけて移民局への変更申請を提出するのが困難となり、一旦自国に戻らなければならなくなった人が増えています。米国に戻ってくるためには、アメリカの新しい雇用主が移民局に申請したH-1Bの承認通知書が必要です。さらに、既存のH‐1Bビザ・スタンプが失効していれば、自国の米国大使館か領事館でビザ面接予約をとり、新たにビザ・スタンプを取得する必要があります。ところが、特にH‐1Bの大半を占めるIT業界はほとんどがインド人で、インドでビザ面接予約をとるのに1年以上かかっているために、短期就労ビザ申請者は長期間インドで立ち往生する羽目になり、予定通りにアメリカで就労を開始できないなど、多大な問題が生じていました。
今年後半に米国内でのビザ・スタンプ更新手続きが再開されれば、海外領事館のビザ審査の負担が軽減され、米国の雇用主の業務への悪影響を改善することができるようになる見込みです。ただ、猶予期間内に新しい雇用主がみつからなければ、アメリカ国内での滞在資格を維持するためには、観光ビザや学生ビザやその他のビザ滞在資格に変更するなどのオプションを検討する必要があります。米国内でのビザ更新申請の具体情報については、今後の米国国務省の発表を見守る必要があります。
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